シリーズ ≪まさこの部屋≫ ではこれまで私が出会った方々から受け取った、あるいはそこから私自身が感じ取った “生きた学び” のいくつかを皆さんにご紹介していけたらと思います。
第一回目は元陸上競技選手で現在もスポーツコメンテーター、指導者などさまざまな分野でご活躍でいらっしゃる為末大さん。
お会いしたのは、私が大人になってかつての専問分野とはまったく異なる学問のために再び大学受験の勉強に取り組んでいる時期でした。退路を断って、ストイックに自分の目標と向き合っているのに、なにやら人生の航路をさ迷う警告であるかのように次々と生じ始める環境の変化に振り回されはじめた時期でもありました。
当時の私はわずか30分のコーヒータイムに友人と息抜きをする時間すら惜しんで断つような修行僧さながらの生活で、それがかえって心身の不安定さをまねいていたような気がします。正直、かなり追い詰められた状況でした。元職場の先輩が声をかけてくれた久しぶりの他者との接触、それが為末さんが講演くださるメディア関係者の集いだったのです。
本業以外のやることなすこと何もかもがまるで "負の連鎖” にはまってしまったような状態をリセットしたい一心でその集いに重い足を引きずるように出かけたことをよく覚えています。
為末さんについては私があれこれ語らずとも、皆さんご存知でいらっしゃると思いますから詳細は省きますね。当時はその年に開催される北京オリンピックに向け、出場をかけた国内外いくつかの大事な大会を控えていらっしゃる最中でした。
為末さんの凛とした姿に惚れ惚れとしピンク色の声をあげている先輩をよそに、私は直接お話しする機会をいただいても「どうしたら負のスパイラルを断てるか」にしか関心が向かっていませんでした。
陸上の短距離をやっていた頃の話など、他愛もない会話を交わした後にさっそく本題を切り出してみました。為末さんはご自身のうまくいかないときのエピソードも隠さずいろいろお話くださり私の問いへの回答として次の言葉をくださいました。
「どんなにうまくいかないことも、負の連鎖にあっても、そこに意識をやるのではなく "ただやることをやり続ける”。一見、負の連鎖に見えることも実は僕は宇宙への貯金だと思っています。その貯金があるからこそ次への飛躍のチャンスがやってくる。うまくものごとがいかない時期を嘆く必要はないと思うんです。辛いことやうまくいかない時期こそ、僕は “今は宇宙に貯金している時期なんだな”と自分に言い聞かせ貯金が気づけばたくさん貯まっている日を想像しながら、随時やり方の軌道修正を図って取り組んでいますね」。
宇宙への貯金。
あの時分の私は勝手にうまくいかないものごとを嘆いて「負の連鎖」と、わざわざ自身に言い聞かせるような考え方をしていました。ですが、人生はもともとがプラスもマイナスもなくゼロが基盤。私たちの習慣や観念の枠から生まれる思考がただ勝手に、それらに対して良い悪い、プラスやマイナスといった色付けをしてしまっているだけなのだと気づき、はっとしたものです。スパイラルにはまるのは、「うまくいかない」ところだけに意識が向かい、そこにわざわざ執着しているわけですから当然といえば当然でした。
目には見えなくても、すぐには結果が表れないように思えても、行いのすべてがきちんと宇宙にある銀行ヘはコツコツと貯金されておりいつかしかるべきときにきちんとまとめておろせるときがくる。視点を今の困難に向けるのではなく、その先にある目標や未来に定め、ただ目の前のことをやり続けることの大切さを改めて感じた出会いでした。
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