もう何年も前になります。我が家には両親が知人からもらってきて可愛がっていた「コボ」という雌犬がいました。

真っ黒な瞳のなんともいえない可愛いお顔をした雑種犬も、お婆ちゃんになるまで生きて晩年は乳ガンに苦しみます。患部が膿たみただれ動物病院での治療もだんだん功を奏さなくなり、やがては立ち上がること、歩行もできなくなっていました。
膿みただれ腐敗する患部の血肉の臭いにどこからともなく集まってくるたくさんのハエ。夏が近づく季節ですとなおさらでした。
自ら体や頭を振ってそれらを払い退ける力もなくなったコボに、お世話になっていた獣医師が「ここまで頑張り過ぎるくらいよくがんばって生き抜きました。もう、楽にしてあげましょう」とおっしゃいました。

750サイズ変更 白猫 

その動物病院の受付台にはいつも、前肢の一本ない無愛想な白猫が座っていました。それまで何度も訪ねていますが一度も、誰とも目を合わせない気ままな無愛想ぶりです。最後のお別れのために訪れた日も、相変わらずプイっと横を向いていつもの場所に座っていました。

家族3人それぞれがお別れを告げると、最期を迎えるためにコボは奥の部屋に連れていかれました。獣医師に処置をされたであろう瞬間のことです。受付台に座っていたその無愛想な猫がひょんと向こう側の床に飛び降り、奥にある例の処置室へ向かっていきました。それから間もなくして、背後にあるドアからふらっと私たちの集う待合室に姿を現し、なんと腰掛けた私の膝の上に座りこんだので驚くではありませんか。あのいつ訪ねてもまるで愛想のなかった猫なのですから。

けれども、私にはなぜかすぐに、コボの魂がこの白猫の体を借りてお別れを言いに来たのだなとわかりました。

抱っこされる柴犬 750サイズ変更

患部の腐敗がひどく抱っこも長いことしていなかったのできっと最後くらい甘えたかったのでしょう。私や両親にひとしきり頭や体を撫でられぎゅっと抱きしめられると満足したのか、白猫は再びするっと私の膝から飛び降りて医院の入口のガラス戸に向かいます。そして、夕日に染まりだした美しい西の空をガラス越しに仰ぎ見ながら何かを見送るようにじっと座っていました。

ふと、「コボの魂が借りていた白猫から離れ、去っていったのだなぁ」と私は思いました。

しばらくして我に返ると白猫は何もなかったかのようにいつもの受付台に上り、いつものようにぶすっとした顔つきで座っています。

私の膝上には温かくて柔らかい「生命のぬくもり」だけが残っていました。

昨年11月に愛猫を亡くされひどく悲しまれていた友人にお話したことに続き、先日伺った知人宅の飼い猫に懐かれふいに思い出す大切な家族との最期の交わり。

目には見えないけれどきっとある、ふしぎな世界のおはなしです。

投稿者プロフィール

小松万佐子
小松万佐子こまつまさこ心理相談室(安曇野ルーム)心理カウンセラー
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