”これが私?キレイだねぇ”
都内に住まっていた時分
知り合ったヘアメイクさんから
お話いただいたエピソードです。
以前「カレー」というブログで
登場した女性ですね。
ヘアメイクに興味があった
九州で過ごした高校生の頃から
ネイルに凝って
練習代わりにといって
離れた地域に住まう
ご自身のおばあさまを訪ねては
おばあさまの爪磨きを
なさってらしたそうです。
おばあさまが目を輝かせて喜び
何度も何度も爪先を眺めては
「きれいだねぇ」という笑顔が
ただただうれしくて・・。
「〇〇ちゃん、本当にありがとうね」
の言葉が何よりの贈り物だったと
話してくれました。
それが彼女にとって
”爪を磨くだけでも
人をこんなにも幸せな気持ちに
できるんだ”
というヘアメイクアーティストを
目指すきっかけになったそうです。
だからなのでしょうか。
彼女は海外、日本
どこにいても
高齢者の施設でのヘアメークも
活動の一つにいれていました。
本日は
そこで彼女が出会った
大病を患われ
生きる気力を失くされてらした
あるご年配の女性のお話です。
表情を失い、誰が訪ねても
笑うことを忘れてしまったかのように
ベッドにいるときも、談話室でも
窓の外をただ無言で
眺めていらっしゃるだけの方。
施設へ初めて訪ねたときも
やはり同じ様子で
無表情のまま
彼女を迎えたとのこと。
その方は他の入居者の方々と異なり
爪磨きやハンドマッサージには
いっさい興味を示さなかったそうです。
最初は見向きもしなかった
そのご年配の女性に
口紅を何本か化粧パレットに
色を出し
「どのお色が好きですか?」と
尋ねたところ
初めて反応をなさり
赤い口紅を選ばれたそうです。
少しご年配の方には派手なくらい
ハッキリとした朱赤のルージュ。
「わかりました」と微笑み
半口を開けるようお願いすると
口を開き待つその女性からは
小刻みな振動が伝わってきて
まるで心臓の鼓動のようだったと
彼女は言います。
紅を差した唇を整え
「いかがでしょう?」と
鏡を見せると
これまで無表情だったその女性が
初めて大きな声を出し
こうおっしゃったそうです。
「これが本当に私かい?」
「これが私?」
「キレイだねぇ・・本当にキレイだ」
うっとりするように
鏡に映るご自分のお顔を見入り
いつまでもずっと
手鏡を離さなかったそうです。
どこをどうお化粧をしたわけでなく
たった一本の紅を唇に差しただけ。
それでも、こんなにも喜んでくださる。
彼女はもらい泣きしそうになり
「おきれいですよね」と
一緒になって鏡を覗き込んだそうです。
その日からそのご年配の女性は
みるみる活力が戻り
あまりいただかなかった食事も
「美味しいね」と
喜んでいただくようになったそうです。
年齢やそのときの状況によらず
人はどんなときも美しくありたいと
思うのかもしれません。
人それぞれに備わる美しさの観点は
その方にしかわからない。
たった一本のルージュ、一色の紅が
ここまで人に活力を与えるとは・・。
男女に関係なく
その人にとって心が華やぐものを
ほんの少し身に着けるだけで
人はここまで活力を取り戻すのかと
驚いたお話でした。
趣向や好みに性別は関係ないですが
そのご年配の方が抱かれた
粋な ”おんな心” が
少し理解できるような気がします。
彼女がその高齢者施設を
訪ねた時からしばらくして
件の年配の女性は
お亡くなりになられたのでした。
棺の中に眠るその女性の唇には
彼女がつけてあげた
朱赤に近い紅が
丁寧に差されていたそうです。
関連ブログ 「カレー」
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今日もお読みいただきまして、ありがとうございました。
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