「やる気がなくて何度も失敗するなら甘えていないでこの家を出て自分でやっていけ」
お父さんにそんなことを言われて長いこと部屋にこもって泣いたきみ。
”僕だって失敗したくてしたんじゃない、一生懸命にやったのに神様は僕に味方してくれなかったんだ。“
”どうして僕はうまくいかなかったのだろう、あんなに、あんなに誰にも負けないほど必死にがんばったのに・・。”
きみは何日も、2階にある自分の部屋から出てこなかった。
たまにふらっと階下に現れるきみはいつものおどけた様子はまるでなく、別人のように背を丸め、泣きはらした目をただ曇らせて「もう死んでしまいたいな」とお母さんにつぶやいた。
お母さんが心配して、きょうだいたちも何も言わないけれど心配して・・。
きみの本気を試したくて出てけといったお父さんも、実は誰よりもきみを案じていた。
周りにいるほかのみんなも何も言えずに、ただ、きみを信じて見守ることしかできなかった。
みんな、きみを、そしてきみの「生きる力」を信じて、ただひたすら見守り続けた。
いつもあんなにおいしそうに食べていたお母さんのつくる食事もいっさいとらなくなって、1週間、2週間・・
あれだけ健康に育って、スポーツで鍛えた体もだんだんにやせ細ってしまい見る影もないほどになってしまった。
この先、まだまだ数え切れないほどやってくるであろう人生の荒波に簡単に吹き飛ばされそうな細くて頼りない体
これから先の人生すべての希望が断たれてしまったかのように光を失った目
それでもみんな、どれだけ時間がかかっても、もう一度きみが自分の足で立ち上がって、自分の正直な気持ちと向き合い、自分で決めた道をほかの誰でもなく自分自身で責任をもって歩み始める、きみの「生きる力」をどこかでちゃんと信じていた。
なにを、あるいはどの道を選ぶかは、実はたいして重要じゃないんだ。
一見キラキラしてその先がずっと輝きしかないように見える道でも
見るからにゴツゴツした石ころや茨だらけの険しい道でも
ぴょんぴょん跳ねて楽々ゴールまで突破できてしまうように思える道でも
間違いなく、楽しいことと同じくらい多くの困難がある。
どんな道でもこれを選んだら正解という道はない。
きみが自分で選んだ道こそが、どれもきみにとっての正解だから・・。
たとえある時期に、かつて選んだ道に違和感を覚えたとしても、そのときに再び自分の心と正直に、そして真摯に向き合いまた選びなおせばいい。
でもいったんは、選んだ道に真剣に取り組んでみる、何があってもそのときの自分の壁や枠を越えようとしてみる。
そこで結果が出ようが出まいが、実はそこが大事なんじゃない。
自分の持てる力を駆使して、自分で決めたことのために目の前にあるできごととどれだけ真剣に向きあえたかが大事なんだ。
それはほかの誰かの目にどう映るかが大事なんじゃなくて、自分だけがやったかやらなかったかをちゃんと知っている。
苦しくても、悲しみにくれることがあっても、怖くなって身動きとれなくなっても、嫌になって歩みを止めたり、何もかも放り出したくなって脱線しても、逃げ出したくなって一時的に放棄しても、やる気がなくなってふて寝を続けていても、そんなグダグダな時間をたとえひたすら繰り返していても・・・
それでもほかでもない自分が決めた目指す場所があるから、再び涙をぬぐい、怠け心をぬぐい、恐怖をぬぐい、また立ち上がって目の前に続く人生を歩み始める。
今はわからなくても、きっといつかきみにもわかる日がくる。
あのとき逃げたい、死にたいと思うほど苦しかったけれど、また立ち上がった自分にいつのまにか刻まれた困難を自分で乗り越える「生きる力」。
その経験があったからこそ、心のもっと深いところで培われより具体的になった夢や目標、より強くなった意志、そして苦しさや切なさを知っているからこそよりつぶさに受け止めることができるようになった他人の心の痛み。
そして、そんなきみときみの「生きる力」を信じて見守り、支え続けてくれたたくさんの存在がいつも周りにあったこと。
人生に失敗は、実はないんだっていうこと。
誰がしてくれたでもなく、自ら心の怖れを拭い去り、自分の「生きる力」で立ち上がり再び歩き始め、そしてもう一度ここに立った自分を信じて思い切り「今」に挑戦してみてほしい。
どのような結果であれ、きみはもうあのとき部屋にこもって泣き続けたころのきみとは全然違う。
堂々と胸を張って挑んでほしい。
わたしはそんなきみ、日本中のすべてのきみを心から誇りに思っています。
例年にない厳しい社会情勢のなか、2021年の大学入学共通テストが今日から始まりました。
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