私たちが何気なくとっている行動。
毎日たくさんの人々とすれ違い
時に関わり生きていると
知人や友人といった
互いを知り合う相手でなくても
何かしらの影響を
与え合うことはあるように
感じています。
ずっと昔のことになります。
都内で同じマンションに住まう
コンサルタントの女性に
たまたまエレベーターで
ご一緒して話が弾んだことを
きっかけに
仲良くさせていただいた方が
いらっしゃいました。
年上のお姉さんという感じで
親しみやすく
何度かお茶をして
話を交わしたことはあったものの
いきなりお相手が
米国出張中との連絡が入り
在米中に急遽入った
都内のクライアントさんとの
日にちをずらせない打ち合わせに
”ただ話を聞いてもらうだけでよいから
と、海外からの電話で
ピンチヒッターを
頼まれたことがありました。
”信用してくれるのはありがたいが
仕事の概要もろくに知らない
外部の人間に
大事な打ち合わせなどを
頼んで本当にいいんかい???”
とは思ったものの
相当にお困りでらしたとあって
何とか力になりたい一心
また、当時、学生に戻っていた私は
久しぶりに仕事の感覚を味えるとあって
安易に引き受けてしまうのです。
たった一度の打ち合わせでも
簡易の名刺を作成せねばならず
日にちがないとあって
住まいの近所ですぐに
名刺を少量から作ってくれる会社を
探すことから始まりました。
ちょうど乃木坂界隈だったと思います。
休日でもやっている
小さなプリント屋さんを見つけ
慌てて駆け込んだのでした。
結婚式なのでしょうか
何かしらの催しの後に
その写真をプリントしてほしい
お若い方々が
同じタイミングで
狭い印刷工房の店内に
ごった返していました。
その団体が去っていく際
ステキな衣装を身に着けた
ある女性のスカートの広がった裾が
目に入りました。
少し先にいらっしゃいましたが
通路にあたる場所にあった
パイプ椅子を
なんの気なしに持ち上げて
通りやすくしたことがあります。
ただそれだけのことでした。
難なく通れれば、それでよいことです。
私の順番がきて作って欲しい
名刺についてお話を始めて
しばらく経ってのことでした。
印刷屋さんのスタッフが
「お客様の雰囲気でしたら
こうした丸みのある文字ですと
いかがでしょう?」
と提案くださいます。
「先程、うちの狭い通路にあった
椅子を他のお客様のために
わざわざ持ち上げて
その方が通りやすくして
差し上げていらっしゃいましたよね」
「そうした何気ないやさしさを
お持ちでいらっしゃる
お客様のそのやさしさが
伝わるような文字だと思うんです」
と言葉は続きました。
逆に、私が驚きました。
言われてみれば気づくけれど
自分でもすぐに忘れてしまうような
何気ない行動を
ちゃんと見ている方が
いらっしゃることに
感動し、驚いたのでした。
印刷文字はおススメいただいた通りにし
たった一回のピンチヒッターのために
作った名刺を持って
打ち合わせに出向いたことを覚えています。
ただ、お話を伺わせていただくだけでしたが
クライアントさんには好印象で
終えることができた経験でした。
それきり使うことのない
名刺なのですが
そこに綴られた文字の丸みは
私にとっては
とても思い出深いものとなっています。
他者の何気ないやさしさに
気づける
あのスタッフさんの心の在り方こそが
やさしさだったのかもしれません。
お話を交わしたその印刷屋さんの
男性スタッフさんのお顔には
半分を覆う赤い痣があったことを
今でもよく記憶しています。
星野富弘さんの絵と共に
綴られる詩が
10代の頃から好きだった私。
一つ思い出す詩があります。
わたしは傷を持っている
でもその傷のところから、
あなたのやさしさがしみてくる
私たちは皆、誰もが
懸命に生きる毎日のなかで
知らぬ間になのか
ずっとどこかに持っていたのか
それもそれぞれだと思うのですが
表に見える、見えないに関わらず
何かしらの傷を持っています。
本人が気づいているものもあれば
気づいていないものもあるのでしょう。
それでも、その傷や傷跡が
あるからこそ
他者の痛みが己の何かに響き
その痛みを共有できるかのように
つぶさに感じ得ることができ
また、その傷口から
他者の何気ないやさしさが
染み入るように
広がっていくことも
あるのだと思うのです。
私にとって、あの真夏の昼下がり
訪ねた印刷屋さんで
体験した小さなエピソードは
様々なことを瞬時に
深く、深く、思いを巡らせ考えて
また自分自身の中で
何度も感じ尽くすような
”人の心とは” に思いを巡らす
大切な出来事として
いつまでも心のひだに刻まれています。
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今日もお読みいただきまして、ありがとうございました。
皆さまが柔らかな心で一日過ごせますように。
小松万佐子から皆様へのメッセージ
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