いつもは門の向こうでポストに配達物を入れるだけの郵便屋さんが門をくぐり書留を届けてくださったある日の夕方。
サインした配達物証明を受け取ると足早に玄関を出て、戸の向こうにある庭に目をやるなり
「冬なのに、きれいですね」と声を弾ませ去っていかれました。
「ん?」とサンダルを履いて表へ出てみると、庭に数本ある椿の木はまだまだ開花を待つ蕾ばかりで咲いている花など玄関内にいくつも並べた植物の鉢以外にはありません。
もう一度、目を凝らして見て「あぁ、なるほど・・」と思わずくすっと笑ってしまいました。
玄関内にある鉢植えの植物、赤い花をつけるベゴニア。
季節の変わり目もあるでしょうし、元々の特質なのかある程度咲いた花がポロポロ落ちてしまうのです。
日当たりの悪い玄関からお天気の良い日には外に出して日光浴をさせますが、まだきれいな花が落ちてしまうのがなんとなくもったいなくて・・・。
玄関前の植え込みに何株もツツジがあるのでその上に散ってしまった赤い花をそのたびに飾って、そのままにしてあったものでした。
まあ、ちょっとした ”いたずら” です。
日暮れどきだったので、灰色の冬空の下ではいっそう赤い花の鮮やかさが目立ったのかもしれません。
冷静に考えればお兄さんもこんな時期にツツジに花は咲かないだろうと思うでしょうが、ぱっと目に入った瞬間に心のほっこりチャンネルと繋がったような具合でしょうか。
毎日たくさんの情報が流れ、自分自身でそれらの内から必要なものを選ぶことができる世の中とはいえ、時に溢れかえるような情報の渦に辟易し、どこにもチャンネルを合わせたくなくなるようなときもあります。
ぱっと目に飛び込んできた日々の暮らしのなんでもないような一コマに、それまでピンと張っていたある種の緊張感が緩む瞬間が私たちには皆あるのかもしれませんね。
なんだかイライラしたり、どんよりした気分を一転させるかのようにささやかだけれどもはっと光が一瞬差し込むようなある情景。
心のどこかで知らず知らずに求めていた小さな幸せの種を見つけたようにチャンネルが合う。
そんな時間が一日一回あるだけでも、私はなんだか救われる気がします。
郵便屋のお兄さん、すみません。そういうわけで、あれはイミテーションの赤い花なんです。
でも、色味のない庭先でたまたま目に飛び込んだあの赤い花で少しでも心が緩んで優しい気持ちになっていただけたのでしたら私もうれしいです。
ささやかないたずらに気づいてくださって、こちらこそありがとうございます。
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今日もお読みいただきまして、ありがとうございました。
皆さまが柔らかな心で一日過ごせますように。
小松万佐子から皆様へのメッセージ